雑誌の特集記事ができるまで(後編):執筆から入稿までの舞台裏

Essay

前編では、企画出しから取材までの流れをお話ししました。後編では、いよいよ原稿を形にして世に送り出すまでの工程です。執筆、原稿整理、デザイナーさんとのやり取り、校正、そして入稿。地味だけれど、ここにこそ編集者の仕事が詰まっています。

(注)ここに書くのはあくまで私が携わってきた「ある媒体」のワークフローです。一口に編集といっても、媒体が違えばやり方もまったく違います。「雑誌編集ってこういうものなんだ」と一般化せず、あくまで1つの事例として読んでいただければ幸いです。

前編もあわせてご覧ください。

7. 記事の執筆:自分で書くか、任せるか

特集記事は、編集だけでなく執筆も自分で行うことが多いです。特集を丸ごとではなく、半分や3分の1くらいのボリュームを執筆することが多いです。

編集だけに徹するのではなく、なぜ自らが執筆するのか。その理由は主に3つあります。

1つ目は、純粋に原稿を書きたいからです。特集について、必要な情報を調べれば調べるほど興味が湧いてきます。興味が湧いてきたら、やはり自分で書きたくなります。特集テーマによっては、最初から「こんなことを書きたい!」という思いがあるケースもあります。

2つ目は、時間効率という観点です。後でも触れますが、ライターさんの原稿を確認し、整理するのはけっこう時間がかかります。だったら最初から自分で書いたほうが、全体的な作業時間を短縮できることがあるのです。特に、書き手の個性が不要な記事、短文の集合のような記事はその傾向が強いです。

3つ目は、現実的な話として、自分の利益を確保したいから。2つ目の理由とも絡みますが、原稿整理はけっこう時間がかかる割に、正直なところ編集だけだと「おいしくない」。だったら自分で書いて「執筆費」と「編集費」の両方をいただいたほうがいい。

一方で、自分で執筆をするよりもライターさんに依頼した方がいいケースもあります。この理由も主に3つ。

1つ目はクオリティの問題。内容によっては、自分より適任のライターさんがいます。それによって特集のクオリティが上がるなら、間違いなくほかのライターさんに依頼します。

2つ目は、客観性の欠如。執筆と編集が1人で完結してしまうと、記事が独りよがりになって、偏った視点になってしまう恐れがある。その「偏り」が人間味につながればいいのですが、読者にとって迷惑になることもあります。

3つ目は、スケジュールコントロールの難しさ。自分で抱え込みすぎると、思ったようなスケジュールで進められなくなることがあります。だいたい仕事というものは見込みより遅れるもの。何年仕事をしていても、スケジュール管理はなかなか難しいものです。自分が執筆する分量を決めるときは、キャパを超えないように注意しています。

文章の書き方そのものについては、この記事では割愛します。いつかどこかで話せるといいのですが。

8. 原稿整理:原稿を雑誌に載せられる形にする

ライターさんから原稿が上がってきたら、「原稿整理」をします。

「原稿整理」というのは編集用語です。要はお預かりした原稿を雑誌に載せられる状態にし、かつレイアウト工程で作業しやすい形にする作業です。ただ、その中身は多岐にわたります。

まず、内容が発注に沿ったものになっているかどうか。事実誤認や曖昧な点がないか。文章は読みやすいものになっているか。誤字脱字はないか。表記は媒体のルールに合っているか。文字量は指定どおりか。

こうしたチェックを行い、必要であればライターさんに修正・加筆をお願いします。編集側で直して良さそうなものは、こちらで手を入れます。

私は新人編集者時代、「原稿はとにかく読者第一」という指導をたたき込まれました。聞こえはいいのですが、「読者にとっての読みやすさ」を優先した結果、ライターさんの個性を削いでしまうこともしばしば発生します。新人時代は、デスクチェックでがっつりと赤字(修正箇所の指摘)が入っていました。もう元の原稿が跡形もなくなるようなレベルです。

その経験があったので、私もライターさんの原稿に結構手を入れる癖がついてしまいました。

大きな手直しをするなら、本来はライターさんに意図を伝えてリライト(書き直し)をお願いするのが筋です。でも時間もないので、こちら側で手を入れてしまうことがしばしば。ライターさんとしては、自分の意図と違う原稿が出来上がったりして、すごく嫌な思いをしたと思います。過去を振り返れば、もっと丁寧なコミュニケーションをすればよかったと、後悔することがいっぱいあります。

ちなみに、ここで言う「原稿」は文字原稿だけではなく、図版(画像・写真)も含みます。私が担当していた媒体では、基本的に図版もライターさんが用意します。スクリーンショットが中心ですが、ハードウェアの写真を撮影してもらうこともある。

この画像をデザイン工程に適したものにするのも、編集者の仕事です。カラースペースをRGBからCMYKに変換したり、ファイル形式を変えたり。個人情報にモザイクをかけたりもします。撮影したものは画像補正を行うこともあります。

9. デザイナーさんへの送稿:素材を託し、バトンを渡す

原稿の用意ができたら、デザイナーさんへ送ります。特集などボリュームのあるものは、整理できたページから順次送っていきます。

このタイミングで、ラフ(レイアウトの下書き)の見直しも行います。ライターさんへの発注時に描いたラフと実際に出来上がった原稿で、違う部分が出てくるからです。たとえば、図版点数を3点で想定していたけれど、実際に書いてみたらどうしても5点必要だった、というようなケースです。また、原稿整理中に新しいレイアウトアイデアが湧くこともあるので、思いついたものはどんどん盛り込みます。

デザイナーさんに伝えたいことは、ラフやテキスト原稿内に書き込んでおきます。

デザイナーさんへの送稿時にはスケジュールもしっかり伝えます。残りのページをいつまでに送るのか、いつまでにアップしてほしいのか。定期刊行物だと大体のリズムは決まっていますが、それでもきちんと伝えておく。やっぱりコミュニケーションって大切です。

もちろん、予定がズレてしまうこともあります。そのときはちゃんと謝る。まあ、いつも謝りっぱなしなのですけど……。

10. 初稿の引き上げと修正:形になったものを磨き上げる

デザイナーさんから初稿(最初に組み上がったデザインデータ)が上がってきたら、まずデザイン全体を俯瞰して確認します。この段階では細かな文字はまだチェックしません。デザインが意図に合っているか、わかりにくくなっていないか。そういったところを重点的に判断します。

あわせて、編集長にもデザインチェックを依頼します。編集長からフィードバックが返ってきたら、自分が感じた点と編集長のフィードバックをまとめて、デザイナーさんに修正を依頼します。

このとき心がけていたのは、なるべく「意図」を伝えること。なぜその修正をしてほしいのか、という理由です。デザイナーさんは単なる作業者ではなく、一緒にものづくりをしているパートナーですから。…などと偉そうに言っていますが、昔の私はこのあたりの意識が低かったなあ。

デザインの修正が終わったら、データを引き上げます。なお、この記事で紹介するワークフローの場合、デザイナーさんに文字修正の指示は出してません。文字修正は、データを引き上げた後に編集者が行います。

文字修正では、ページの頭から順番に直すのではなく、まず大きなところから手をつけます。見出しの文字量の統一とか、記事内の体裁の不統一の修正とか。それから細かな文章に入っていく。図版のトリミングなども編集者が直します。

この媒体の編集者は、「InDesign(アドビ製のページレイアウトソフト)」を使いこなせることが求められます。私はもともと印刷業界にいたので、レイアウトソフトの知識がありました。でも、そういう経験なしに編集者になった人は大変だと思います。

ブラッシュアップの作業は、サービス精神と時間との戦いです。「もっと面白くしたい」「もっとわかりやすくしたい」と思いながら修正を重ねていました。

コンピュータ雑誌は、図版に囲みや矢印を入れることが多いのですが、これをどこまでわかりやすく入れるかにも気を使いました。囲みや矢印で注目すべき箇所を示しておかないと、人は図版を読み飛ばしてしまいがちです。読み飛ばされてしまったら、その部分は「死んでしまう」。だから、いやでも目が行くように、注目すべきところに印をつけるのです。

こうしてひと通り修正したら、いよいよデスクチェックに進みます。

11. デスクチェックと著者校正:何重ものチェックを重ねる

「デスクチェック」とは、デスクレベルの責任者による記事チェックを指します。デスクレベルの編集者というのは、編集長、副編集長、デスクといった立場の人です。自分がデスクレベルの場合は、ほかのデスクや編集長がチェックします。

このデスクチェックで、記事に赤字が入って戻ってくるので、それを修正します。

並行して、ライターさんにPDFを送って著者校正をお願いします。取材記事であれば、取材先にも確認のPDFを送ります。

実際には、PDFを送る少し前に「◯日に送る予定です」と連絡して、時間を確保してもらうようにしています。いきなりPDFを送って「明日までにチェックしてください」というのは失礼ですから。

若い頃は、この記事確認のスケジューリングがまったくうまくできなくて、いろいろな人に迷惑をかけました。申し訳ない思い出がいっぱいあります。

ベストなワークフローは、デスクチェックの赤字を反映してから、著者校正や取材先確認に回すことです。でも、時間の都合で、デスクチェックと著者校正を並行して行うことがほとんどでした。やはり今でも、ベストな段取りを踏む余裕を確保できていません。

著者校正や取材先確認で指摘が入ったらデータを修正します。この修正も、もちろん編集者が行います。

12. 入稿:「お疲れ様でした」の瞬間

編集者の文字修正などが終わったら、デザイナーさんにデータを戻します。デザインチェックをお願いするためです。編集者が手を入れてデザインが破綻していないかを確認してもらったり、デザインに関わる修正を依頼したりします。

デザイナーさんのチェックが終わったら、今度はアートディレクターのチェックがあります。アートディレクターは、いわばメディアのデザイン部門のチーフ。最終的なデザインの確認をしてもらいます。

アートディレクターのチェックが終わったら、再度データを引き上げます。

最後の最後にチェック。納得のいくところまで、間違いのないところまで確認する。「これで本当に最終データだ」となったら、入稿です(この媒体では、「校閲」と呼ばれるチェック工程はありません)。

昔は、自分でデータをMOに入れて、プリントアウトを用意して、それを印刷所に渡していました。社内には印刷所への受け渡し用のポストのような箱があって、そこに入れるのです。今はサーバ経由でデータを送るようになりました。

外部編集者になってからは、データ入稿は社内の編集スタッフさんにお願いしています。私は編集スタッフさんに最終データを渡して、しばらく経ってから「入稿しました」というメッセージを受け取る。これで、その号の編集作業がようやく終了します。

ときどき、入稿を担当してくれる編集部のメンバーから誤字脱字の指摘が入ることもあります。何重にもチェックしてくれるのはありがたいです。私も何度もチェックしているはずなんだけど……おかしいなあ。

入稿後、私はほぼ完全に手が離れますが、社内の編集スタッフはWebやSNSで最新号の告知を行うなど、やることがいろいろあります。全部大変なタスクです。本当にお疲れ様です。

おわりに

以上が、私がやっていた雑誌編集作業の流れでした。

繰り返しになりますが、これはあくまで「私の話」です。編集作業というのは媒体によってまったく違うし、同じ媒体でも人によって違うことがあります。この記事を読んで「こんなやり方はダメだろう」と感じたとしても、それは私だけがやっていたことかもしれません。

改めて振り返ってみると、雑誌編集ってまあまあ大変だなあ、と思いますね。でも、大変な分やりがいがあるし、やっぱり楽しい。

これからも、どんどん紙の雑誌は減っていくのでしょう。それでも、まだ紙媒体をつくりたい思いがあります。

もし関わらせてもらえる媒体があれば、ぜひお声がけください。この記事で書いた作業内容はバッチリこなせますし、別のワークフローにも柔軟に対応できます。

いいご縁があるといいんだけどなあ……。

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