雑誌の特集記事ができるまで(前編):企画・発注・取材のリアル

Essay

長年関わっていた2つの雑誌が、この冬まとめて定期刊行を終了しました。事実上の休刊です。その知らせを受け止めてしばらく経った頃、ふと、自分がやってきた記事づくりの流れを書き留めておこうと思いました。紙の雑誌がどんどん減っていく時代、編集者が現場で何をしていたかという記録が、いつか誰かの参考になるかもしれません。

なお、ここに書くのはあくまで私が携わってきた「ある1つのIT雑誌」のワークフローです。雑誌のつくり方は媒体によってまったく異なります。私はこれまで複数の雑誌編集を経験しましたが、媒体によってワークフローはまったく異なりました。それは同じ出版社内でも言えることです。媒体が違えばやり方もまったく違います。「雑誌編集ってこういうものなんだ」と一般化せず、あくまで1つの事例として読んでいただければ幸いです。

このテーマは前・後編の2つに分けます。前編では、企画出しから取材までの「仕込み」のフェーズをお話しします。

1. 企画出し:編集会議という名の挑戦

雑誌には「編集会議」というものがあります。

メインの議題は、次号(あるいは次々号)の特集テーマを決めること。私が関わっていた媒体では、編集者1人につき5本くらいの特集案を用意するのがルールでした。たとえば第1特集向けの企画が1本、第2特集向けが2本、第3特集向けが2本、といった具合です。

特集案を考えるときは、いろいろな方法を使います。Amazonで売れ筋の書籍をチェックしたり、Webニュースを眺めたり、書店をぐるぐる歩き回ったり。日々気になったニュースはブックマークしておいて、そこからアイデアを捻り出すこともあります。

ただ、意外と「強い」企画が生まれるのは、自分の生活の中からだったりします。ふと思いついた活用法や、困ったこと、興味を持って始めたこと。そうした実感のこもった企画は、説得力が違うのです。

会議に提出する企画書は、タイトルと概要、簡単な構成案をテキストでざっくり書いたものです。スライドを作り込んだりはしません。5案全部でA4用紙1.5〜2枚分くらいのボリュームでしょうか。それを各自持ち寄って、1人ずつプレゼンしていきます。

正直に言うと、新人の頃はこの編集会議が苦手でした。嫌いだった、と言ってもいいかもしれません。なぜなら、まったく企画が通らないからです。

自信を持って提案しても、周りは誰も関心を示さない。そんなことがザラでした。入ったばかりの頃はまだ期待を抱いていましたが、何度も空振りが続くうちに、すっかり嫌になってしまったんです。当時はストレートにダメ出しされることも多かったですし。

今になって振り返ると、当時の企画はそもそもアイデア以外の部分で「足りなかった」とわかります。その記事で読者にどんなメリットがあるか、言い換えれば、どんな価値を届けられるか。それをうまくプレゼンできていなかった。実現するための具体的な方法、つまり構成のイメージもぼんやりしていたと思います。もちろん、その場での話し方も重要です。「面白そう」と思わせられるかどうか。

ただ、そうやって何度も失敗しているうちに、少しずつ「刺さる」回数が増えてきました。

最近は、後輩のプレゼンを見て、「自分が通ってきたのと同じことをしているなあ」と感じることがあります。そのプレゼンを聞きながら、「そのアイデア、もうちょっとこうすればもっと面白くなるな」と考えて、それを発言する。企画の横取りみたいに見えるかもしれませんが、発展させて面白い記事になれば、読者にとっても、発案者にとっても、みんなにとってメリットがあるんじゃないでしょうか。

そんなこんなで、この編集会議はけっこう長い時間続きます。最近は短くなりましたが、昔は4時間以上やったこともありました。なにしろ、決まるまでは終われないのです。どれも決定打に欠ける、とか言いながら、みんなでうんうん唸っていた記憶があります。

2. 特集全体の構成:狙いを持つことが大切

編集会議では、特集テーマと同時に担当編集者も決定します。この媒体では、基本的に、1つの特集は1人の編集者が担当していました。会議で自分の担当する特集が決まったら、いよいよそこから特集をつくりはじめていくわけです。

第一歩は、企画書づくりから始まります。

編集会議では「買い替え」とか「必携アプリ」とか、ざっくりとしたテーマしか決まっていないことが多いので、担当編集者が輪郭を明確にしていきます。ターゲットはどんな人か。どんなことを届けたいか。14ページや26ページといったページ数の中に、どんなコンテンツを入れていくか。

いわば記事の骨組みの部分です。ここが曖昧だと良い特集にはなりません。そのテーマに沿って情報収集しながら考えていきます。苦手なテーマのときは、この時点でライターさんと打ち合わせをしながら一緒に構成を考えることもあります。

最近思っていたのは、この時点で「人を楽しませるための狙い」を考えておくのが大事だということ。情報誌は教科書ではないので、単に解説しただけではつまらない記事になってしまいます。だから、楽しみながら読んでもらえるよう、どんなカラクリを入れるか。たとえばそれはインパクトのあるビジュアルだったり、マンガによる解説だったり、リアルなインタビューだったり。あるいはとてもわかりやすいフローチャートだったり。そういう狙いやアイデアがあってはじめて企画と言える気がします。まあ、それを明確に意識したのは最近なんですけどね。

そうやって考えたことを1枚の企画書に落とし込みます。企画書は、編集長に提出し承認を得ます。ここでもし方向性のズレがあれば修正し、OKが出たら次のステップに進みます。

3. ライターさんへの発注:まずは相談から

次は、ライターさんへの依頼です。1つの特集あたり、2〜4人くらいのライターさんにお声掛けして、分担して執筆をお願いすることが多いです。

最初に企画書を送って、執筆してもらえるかどうかをお伺いします。引き受けてもらえたら、具体的なすり合わせに入ります。

企画段階で明確に依頼したいパートを決めていることもありますし、「特集内のどのパートに興味ありますか? 何ページくらい行けそうですか?」という感じで執筆いただく箇所を相談することもあります。依頼するページの具体的な内容も、このタイミングで詰めていきます。

昔は対面でブレストっぽく打ち合わせをしていましたが、最近はその機会もなくなってしまいました。もっとビデオ会議を活用すればよかったな、と今になって思います。きっと、もっといろいろな意見を引き出せて、より良い記事ができたんじゃないかと思います。

4. ページラフの作成:ページの設計図を描く

ライターさんとの打ち合わせでページの内容が固まったら、次はページのラフを作成します。これも編集者の仕事です。

ラフというのは、ページの設計図のようなもの。どこに見出しを置いて、どこに本文を流して、どこに図版を入れるか。大まかなレイアウトを決めていきます。この作業によって文字量や図版点数が決まり、ライターさんがそれに沿って原稿を作成できるようになります。

最初の頃は、同じ雑誌の過去の記事を参考にレイアウトを考えていました。それを何号か続けているうちに、自分なりのパターンが見えてきます。

ただ、最近は、かなり意識的に別の雑誌を参考にするようになりました。マンネリ化していた雑誌の雰囲気を変えたかったからです。今思えば、もっと大胆に改革すればよかったなあ…という思いもありますが、それでも毎号少しずつ新しいことにチャレンジしたつもりです。

昔は手書きで紙に書いていました。今はiPad+Apple Pencilでレイアウト案をざっくり書いて、それを元にAdobe Illustratorで設計するというやり方をしています。この辺りのツール選びは、編集者によってまちまちだと思います。

5. ビジュアルの決定:特集の「顔」を考える

コンテンツの検討と並行して、ビジュアルをどうするかを考えます。特集には何らかのビジュアルが必要です。写真で行くのか、イラストで行くのか。どんな内容にするのか。

アイデアを練った上で、デザイナーさんと打ち合わせを行い、ビジュアルの方向性を固めます。「こんな感じでやろうと思っています」と一方的に伝えるパターンもありますが、相談しながら決めることも多いです。なお、デザイナーさんとの打ち合わせでは、誌面のレイアウト構成についても話し合います。といっても、この時点ではざっくりとした「狙い」や「トーン」の共有がメイン。「ゲーム攻略本みたいにしたい」とか「ファッション誌みたいにしたい」とかいった狙いがあればこの時点で伝えます。このタイミングだと、自分がそこまでイメージできていないことも多いのですが……。

ビジュアルの方向性が決まったら、発注やセッティングに入ります。

イラストの場合は、イラストレーターさんを決めて連絡。締め切りやざっくりとしたボリューム感を伝え、描いてもらえるかどうかを確認します。

OKの返事をいただいたら、具体的な内容を伝えます。このとき私は、ざっくりとしたラフ絵を描いて希望を伝えていました。ここで気をつけていたのは、なるべく描き込みすぎないこと。もともと趣味で絵を描いていたので、つい描きすぎてしまうのです。描きすぎると仕上がりに余計な影響を与えてしまうし、場合によってはイラストレーターさんに嫌な思いをさせてしまうこともある。実際にそういう失敗もありました。「自分の仕事領域に踏み込まれている」と感じさせてしまったんだと思います。今は、最低限、意図が伝わるだけの絵に留めるよう注意しています。

写真をビジュアルにする場合は、もう少し準備が複雑になることが多いです。モデルさんを使うケースでは、モデル事務所と相談しながら出演者を決めます。本当は衣装さんやスタイリストさんも手配したほうがいいのですが、予算の関係で「自前で」お願いすることも多かったです。ロケ地の検討と交渉、カメラマンさんの手配もあります。

あるいは、「物撮り」をベースにビジュアルを作成することもあります。このパターンは、編集部があるオフィス内の撮影室で、カメラマンさんに撮影してもらいます。モデルさんやロケ地の手配がいらない点は楽ですが、「物撮りだけで、惹きつけるビジュアルをどう作るか」を考えなければなりません。

6. インタビュー・取材:専門家の知見を借りに行く

記事によっては、専門家へのインタビューや取材を行うことがあります。

企画書を作成した時点で、「こんなテーマで、こんな人に話を聞きたい」というイメージはすでに持っています。すでにインタビュー対象が明確な場合は、その人に依頼を送ります。

一方で、インタビュー対象が絞りきれていないケースもあります。たとえば、「PCデスク&チェアの専門家」みたいなパターンです。この場合、企画意図に一番合う人は誰かを考え、ネットやSNSを使って候補を挙げていきます。

インタビューの申し込みは、編集者自身が行います。企画概要やインタビュー内容、希望日時などを伝えてお願いするわけです。

スムーズに決まることもあれば、何日経っても返事が来ないこともあります。雑誌には締め切りがあるので、数日返事がないだけでもかなり焦ります。早めに依頼すればいいのですが、現実はそう簡単にはいきません。

インタビュー記事の執筆を別のライターさんに頼む場合もありますが、基本的には、自分でインタビューして自分で執筆することが多いです。

以前は実際に訪問してインタビューをしていましたが、私が長野県に住むようになってからは、オンラインでのインタビューが基本になりました。写真を撮影できないのがネックですが、逆に、相手がどこに住んでいても取材できるようになったので、これはこれで良かったと思っています。もちろん、撮影が必要なケースや、インタビューだけでなく現場を見ることが重要な取材は、直接お伺いする必要があります。

インタビューが決まったら、事前に質問を用意して送ります。準備をせずに取材に行くなんてもってのほかです。まあ、昔はそんな時期もありましたが、ぶっつけ本番で相手のアドリブ力に期待するなんて、いい記事ができるわけがありません。

もちろん、当日は準備した質問を読み上げるだけ、なんてことはしません。相手の話に興味を持ちながら聞いていると、自然と聞きたいことが湧いてきて、会話を深掘りしていくことができるはずです。

私のインタビューの仕方については、いつかどこかで詳しく書きたいと思っています。


前編はここまで。後編では、ライターさんから届いた原稿をどう料理するか、デザイナーさんとのやり取りで起きがちなトラブル、そしてライターさんや取材対象への記事確認など、引き続き制作現場のリアルをお話しします。ぜひ後編も、ご期待ください。

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